監督「この作品は白黒映画。静寂や世界からの隔絶について描いた。それなのに僕は世界中の注目を集める華やかな舞台に立ってしまった。最高の気分です。人生は驚きの連続ですね」

昨年のアカデミー賞授賞式では、ジョン・トラボルタが『アナと雪の女王』の歌手を紹介する際、イディナ・メンゼルと言うべきところを「アデル・ダズィーム」とナゾの名を呼ぶ大チョンボをした。この“事件”が今年の授賞式でイジられた。司会のトニー「(主演男優賞候補の)ベネディクト・カンバーバッチ、かっこいい名前だね。ベン・アフレックをトラボルタ風に発音したんだ」(場内爆笑)。その後に歌曲賞のプレゼンターで登場したイディナ・メンゼルが「皆さん、私の大切な人グロム・ガジンゴです」と語り、出てきたのがトラボルタで場内は再び爆笑。トラボルタ「さて歌曲賞の受賞作は…君が発表して」。受賞曲は昨日の日記でも紹介した、黒人公民権運動を描いた『セルマ』の“グローリー”。

オスカーを手に持った黒人ミュージシャンのジョン・レジェンドとコモン「先日、かつてキング牧師らが行進した橋でジョンと“グローリー”を歌いました。50年前は分断された国家の象徴だった橋が、今や“変化”のシンボルです。この橋の精神は、人種、性別、宗教、性的指向、社会的地位をも超え、表現の自由を訴えるフランス、民主主義を求める香港などにも繋がっている。この橋は希望と慈愛と全人類への愛で出来ている」
「(黒人女性歌手の)故ニーナ・シモンは言った“時代を反映するのが歌手の仕事”。映画の題材は50年前の出来事だが、問題は今も変わらない。人々は今も正義を求めている。50年前に勝ち取った参政権が、今の米国では損なわれている。米国は人々を監視下に置く国家だ。自由と平等が損なわれている。1850年に奴隷だった黒人より、今監視下にある黒人の方が多い。“グローリー”を歌って行進するみんな、僕らの心は君らと共にある」。
続いては、『サウンド・オブ・ミュージック』で4オクターブの広い音域を披露したジュリー・アンドリュースのリスペクト・コーナー。現代の歌姫レディー・ガガによる『サウンド・オブ・ミュージック』の名曲メドレー(豪華すぎる!)。ガガの圧倒的な歌唱力に、登壇したジュリーも涙ぐんでの抱擁。

脚色賞に輝いたのは『イミテーション・ゲーム』のグレアム・ムーア(34歳)。同作は天才数学者アラン・チューリングを描いたもの。アランはゲイであることを叩かれ、悲劇的な最期を遂げる。グレアム・ムーアのスピーチは聞き手の心を打つものがあった。
「主人公アラン・チューリングは、このような舞台で表彰されなかった。でも、僕はここにいる。なんて不公平なんだ。だから、短い時間だけど1つだけ言わせて欲しい。僕は16歳の時に自殺未遂をした。自分の居場所がないような気がして。そんな僕が今ここに立っている。だからこの映画を、自分は変わり者で居場所がないと感じている子供たちのために捧げたい。君たちには居場所があります。そのままの自分で大丈夫。どうか他人と違うままでいて下さい。いつか君がこの場所に立った時には、同じメッセージを伝えてあげて欲しい。本当にありがとう」。この若い脚本家のスピーチにハリウッドの名だたる俳優たちが立ち上がって拍手を贈った。司会はニール・パトリック・ハリス。陽気な司会っぷりと、『ゴーン・ガール』のサイコ君とのギャップに驚く。ニールは楽しいジョークを連発しつ、随所に社会風刺。例えば冒頭の挨拶「アカデミー賞にようこそ!今日は映画界を代表する白人…いや、名士たちが集まりました」。わざと言い間違えたのは、黒人の公民権運動を描いた『セルマ(原題)』で、黒人女性監督エヴァ・デュヴルネやキング牧師役が絶賛されたデヴィッド・オイェロウォがノミネートすらされなかったことへの抗議だろう(アカデミー会員の93パーセントが白人)。
幕開けのミュージカル・ショーに乱入したジャック・ブラックの歌が強烈→「♪映画界はバカが牛耳り中国マネーにゴマをすってる/ウケるのはヒーロー映画だけ、スーパーマンバットマンetc.、続編にリメイク、ありきたりな脚本ばかり/バカどもが見るのはポケットの中の画面だけ、スマホのスクリーンだけさ!」。いやはや、フルスロットル。
司会のニールが仕切り直し「今夜はノミネートされた全60作品の関係者を称えます。映画は勇気と夢と信念を持つことを教えてくれる。今夜は映画を称え、映画に惚れ直すために皆で集まりました」。“映画に惚れ直す”という言葉に会場から拍手。
オスカー授与は毎年助演男優賞から始まる。今年は『セッション』のJ・K・シモンズが受賞。「妻に感謝しています。子どもたちが愛情深く育ったのは母さんに似たからだ。皆さんに言いたいのは“親に電話を”。母親でも父親でも生きているのならぜひ電話して。Eメールじゃなく電話をかけて愛してると伝えましょう」。
外国語映画賞のプレゼンター、キウェテル・イジョフォーニコール・キッドマン「我々を隔てるものはたくさんあります。国境、文化、宗教、人種」「でも映画館ではその違いが消え去ります。共に笑い、共に泣く。映画は国ではなく人を描いているからです」。
同賞に輝いたポーランド映画の『イーダ』。監督「この作品は白黒映画。静寂や世界からの隔絶について描いた。それなのに僕は世界中の注目を集める華やかな舞台に立ってしまった。最高の気分です。人生は驚きの連続ですね(会場拍手)」。
名誉賞では宮崎駿監督のスピーチ(録画映像)「(アニメがCGになる前の)紙と鉛筆とフィルムの最後の時代の50年に付き合えたことは幸運でした」。
ジーン・ハーショルト賞のハリー・ベラフォンテ「アーティストは文明を変える声を持っています。ここにいる誰もが変化を起こすパワーと影響力を持っています。我々人類の良い面を引き出すことが出来るのです」。
助演女優賞のプレゼンターはジャレット・レト。何度もオスカーに輝いているメリル・ストリープがまたノミネートされているためジョーク。「今年の助演女優賞の候補者は全員が実力派でパワフルな存在です。4人の女性と、州法に従ってメリル・ストリープも選ばれました」(会場笑)。
受賞したのは『6才のボクが、大人になるまで。』のパトリシア・アークエット。「(家族やスタッフに御礼を述べた後)より良い世界のために闘う友人たち、刺激を有り難う。アメリカは様々な人の為に闘ってきました。今度は全米の女性が平等な賃金を求める番です!平等な権利のために闘いましょう!」(会場から喝采、特にメリルなど女優から歓声)。
※続きはまた明日。日本アカデミー賞でも、こういう社会的な発言を俳優がどんどん言って欲しい。