でも、その作業を通して「私の人生はこの上なく充実したものになった」と言える『大渡海』制作に携わった人々を見て、めさめさカッコ良いと思った。

祝!映画『ハーメルン』DVD化 今年、北海道で知り合いになった坪川拓史監督の新作映画『ハーメルン』がDVD化された。ミニシアター系で巡回上映された作品。以下、作品レビュー(ネタバレなし)と制作の裏話。 →『ハーメルン』はとても静かで優しい映画。廃校となった福島県西部・昭和村の古い木造小学校を舞台に、元校長や教師の家族、成長後に訪れた生徒などの人間模様が描かれる。大河『八重の桜』でブレイクする前の西島秀俊さんが主演を務め、倍賞千恵子さん、坂本長利さんら名優が脇を固めている。 特筆したいのは、校庭の見事な大イチョウが真の主役と言っていいほど強い存在感を放っていること。坪川監督の話によると、何年も前に偶然見かけた古い校舎と大イチョウの写真の虜になり、北海道、東北地方、甲信越の木造校舎を探し歩き、2008年冬、ついに福島の会津地方・昭和村に写真と同じ校舎を発見したという。奇跡的だ。ところがショックなことに、校舎は春に解体が決まっていた。監督は村長さんや村民の方を説得して“解体延期”を決めてもらうが条件が2つあった。それは「09年秋までに完成」「撮影終了後、速やかに解体」というもの。しかし、09年秋はあまりに早くイチョウが色づき、すぐに散ってしまい撮影が間に合わなかった。もう一度各方面に嘆願し一年の解体延長。だが、2010年は逆になかなか色づかず、青葉のまま季節外れの大雪が降り、またしても撮影延期…。 村の方々はロケ中の炊き出し、キャストの送迎、エキストラの準備など万全の体制で撮影開始を心待ちにしていたので、2度目の撮影延期を告げるのが辛かったとのこと。そして2011年の東日本大震災。福島は大打撃を受け、監督も呆然としているところへ、会津若松の方から「今こそ撮って下ださい」とメッセージが届く。昭和村の血が入っているプロデューサーも見つかった。そして2011年秋の撮影が始まると、これまでの困難が信じられないほどイチョウはスケジュール通りに色づき、無事にクランクアップを迎えた。村の人々はスタッフの宿泊用に自宅を開放してくれたり、食べきれないほどの差し入れを連日届けてくれたり、キャストを送迎してくれたり、多くの人の協力で映画は完成した。 撮影後、保存の気運が高まって校舎解体はいったん延期になり、翌年に校庭でイチョウ祭りが開催。同祭りは2014年の今年も盛大に行われたという。ただし、校舎の老朽化が激しく、もはや解体も仕方ない…という空気が流れていたところ、『あなたの残したい建物コンテスト』でベスト8に残り、第1位になれば無償で耐震工事が受けられるとのこと(僕も一票を投じました)。そうなれば保存の可能性は格段に大きくなる。映画撮影前は校舎解体とイチョウ伐採が目前に迫っていたことを考えると、流れが大きく変わってきた。 坪川監督いわく『僕の作る映画のテーマは、あえて言うならば「忘れないでいるということ」。“忘れない”という行為は、簡単なようでとても難しい。人は忘れる生き物で、忘れるからこそ前進して行けるのだけれども、最近は、その忘れる速度が増している気がするから。忘れなければ前に進めない。しかし、忘れきってしまっては、前へ進んではいけない。人は過ちを犯す、その過ちから学べないのなら、前へ進む権利はないのだから』。 鑑賞後、いつまでも耳の奥にカノンのメロディーが響き、瞼の裏に黄金のイチョウが映り、コーヒーの良い香りに包まれている気がした。老いもまた美しく、残された者の人生は続く。本日、俳優菅原文太さんが他界(享年81)。あまりに突然で信じられない気持ち。だって、今月の沖縄知事選で新基地反対派候補の応援演説に行っていたのに。安倍政権の暴走に対して沈黙を守る文化人が多いなか、菅原さんは最前線で「秘密保護法反対」「脱原発」「集団的自衛権解釈改憲反対」を主張し、堂々と政権批判を行う数少ないリアル・ヒーローだった。衆院選を前に、最もリベラル側が必要としていた人物の一人。日本の真の民主化を見ずに他界とは無念すぎる。 文太さんの奥さんのコメント「小さな種を蒔いて去りました。一つは、先進諸国に比べて格段に生産量の少ない無農薬有機農業を広めること。もう一粒は、日本が再び戦争をしないという願いが立ち枯れ、荒野に戻ってしまわないよう、共に声を上げることでした」。映画関係者では『卒業』(D・ホフマン主演)などで知られるマイク・ニコルズ監督も19日に亡くなっている(享年83)。反戦コメディの『キャッチ=22』、生物兵器を描いた『イルカの日』など秀作が多く、中でも核燃料プラントの放射能汚染を告発しようとして謎の事故死を遂げたカレン・シルクウッド(享年28)を描いた『シルクウッド』(メリル・ストリープ主演)は、原子力業界の闇を扱った勇気ある作品だった(実際にカレンが働いていた核燃料プラントは安全管理がずさんで、彼女の体はプルトニウムで汚染されていた)。今春の日本アカデミー賞で主要部門(作品、監督、主演男優)を総なめした『舟を編む』をようやく鑑賞。観る前は“辞書制作”という地味な内容で果たして2時間13分も持つのかと懸念していたけど、まったく退屈せずに最後まで楽しめた。さすが各賞に輝いただけある。 言葉の“右”を説明する時に、辞典によってこんなに差があるとは。編集者は他社の辞書より良い説明を目指して知恵を絞っている。一冊の辞書を出すために10年以上もかかったり、編集者は常に用例採集カードを持ち歩いて新語をメモるなど、これまで知らなかった辞書制作の裏側、苦労、日々の努力を垣間見られて良かった(紙質の“ぬめり”にまでこだわっていたとは!)。原作者はよくこの職場に光を当てたなぁ。モノづくりの最前線は実に刺激的。たとえ十数年かけて辞書が完成しても、自分の名前を世間が讃えるわけでも、高額の報酬があるわけでもない。でも、その作業を通して「私の人生はこの上なく充実したものになった」と言える『大渡海』制作に携わった人々を見て、めさめさカッコ良いと思った。人生の価値を決めるのは他人ではなく自分。俳優も、松田龍平オダギリジョー宮崎あおいと演技派が揃った。普段、何気なく使ってきた本棚の辞書がこの上なく愛しくなった。89点。『サンゴ密漁船一斉摘発へ』 これで少しは酷い状況が改善されるだろう。小笠原諸島周辺に中国のサンゴ密漁船が多数押し寄せている問題で、海上保安庁は全国から複数の巡視船を現場海域に追加派遣し、11/21未明から一斉摘発に乗り出した。これまで外国漁船を領海外に追い出すことを優先していたが、夜間に集中的に操業するなど密漁が悪質化していることから、積極的に漁船を拿捕(だほ)して摘発する方針に切り替えたとのこと。太田国土交通相は「24時間体制で取り締まるため態勢を強化した。夜間の監視を強めるよう指示した」と述べたが、既に半月前の180隻から、今は40隻程度に減っているといい、完全に強化策は“遅きに失する”としか言いようがない。ニュース番組には密漁船に根こそぎ引っかき回され、砂漠のようになった海底が映っていた。生態系が回復するまで膨大な時間がかかり、ヘタをすると環境が変わって以前の状態に戻らない海域もあるという。 この件で安倍政権は呆れるほど無策ぶりを発揮。尖閣のような係争区域ではなく、完全に日本の領海なんだから、それこそ海上保安庁と海自が連携して、初期段階で徹底排除していればこんな事態にならなかった。不思議なのは保守論客。民主党政権の時は尖閣漁船問題で“中国に弱腰”と散々に罵倒していたのに、安倍氏への批判は殆ど聞こえてこない。もし同じことを民主がやっていたら、小笠原海域を守れなかった無能政権として、ネット、週刊誌で、徹底的に糾弾されていただろう。街宣右翼だって、こういう時に政治家に働きかけなくてどうする。尖閣に上陸したみたいに、船をチャーターして密漁阻止に動けば言動一致になるものを。どうするんだよ、ボロボロになった海底…。