2024年11月14日に発売予定のロールプレイングゲーム「ドラゴンクエストIII そして伝説へ…」のリメイク版(通称「HD-2D版」)が、SNSやオンラインコミュニティで大きな議論を巻き起こしています。
特にキャラクターの性別表記が「男」「女」から「ルックスA」「ルックスB」に変更されたことが、炎上の主な原因となりました。ファンの間では、この変更がシリーズのイメージを壊すとする意見と、多様な価値観への配慮として歓迎する意見に分かれており、まさに賛否両論の状態です。
変更の背景にある多様性の推進
この性別表記の変更は、スクウェア・エニックスが近年の多様性の推進を意識して行ったものと考えられます。現実社会では、性の多様性やLGBTQ+の権利についての理解が深まっており、二者択一の性別選択は現代の価値観にそぐわないとの指摘も増えています。
ゲームデザイナーである堀井雄二氏も、9月末の東京ゲームショウでの対談で「今の時代に合わせた変更を考えた」と述べました。しかし、この発言が一部のファンには反発を生んでしまいました。
ポリティカル・コレクトネスと原作ファンの反発
多様性やインクルージョンを重視する変更は、ゲーム業界全体でのトレンドです。『ポケットモンスター』や『どうぶつの森』などの人気タイトルでも、性別表記が廃止されるか、より中立的な表現が採用されています。
こうした流れの中で、ドラクエIIIのリメイクでも「性別表記の削除」という決断が下されたわけですが、これに対し、「ドラクエにポリコレ(ポリティカル・コレクトネス)が侵食している」という批判も少なくありません。
特に、原作のドラクエIIIには、「むっつりスケベ」や「セクシーギャル」といった男女固有の「性格」が登場しており、これがリメイク版では共通化される見込みです。長年シリーズを愛してきたファンにとっては、この「性別によるキャラクター付け」が、ドラクエIIIの魅力のひとつでした。
そのため、「ドラクエのイメージが壊れる」「過剰な配慮がオリジナルの魅力を失わせる」という声が多く挙がっています。
炎上の発端—堀井氏の発言とSNSでの拡散
炎上が拡大したきっかけは、堀井氏の発言とその内容がSNSで拡散されたことです。東京ゲームショウでの対談において、堀井氏は「男女でいったい誰が文句を言うんだろう」と発言。この発言が非公式に英訳され、X(旧Twitter)の英語圏ユーザーの間で拡散されました。さらに、Xのオーナーであるイーロン・マスク氏がこの投稿をリポストし、世界的な注目を集める結果となりました。堀井氏の発言がSNSでシェアされるたびに、賛成・反対双方の意見が激化し、炎上が一気に広がったのです。
英語圏での論争
日本国内では比較的冷静な意見も多かったものの、英語圏では「ポリティカル・コレクトネスがドラクエにまで影響している」として批判的な声が強まりました。特に「懐かしの名作がリメイクされる時、その精神やイメージはなるべく残してほしい」という意見が多く見られ、「日本のゲーム文化がグローバルな圧力に屈しているのではないか」という懸念を示すコメントも目立ちました。X上では、ハッシュタグ「#SaveOriginalDQIII」が登場するほど、性別表記の変更に対する反発が強かったのです。
ドラクエシリーズのファンと性別表記の意義
ドラクエIIIが発売された1988年当時は、キャラクターが持つ「性別」が物語やゲームプレイにおいて特別な意味を持っていました。ファミリーコンピュータ用のソフトとして登場した当時、限られた容量や技術の中で、キャラクターの「性別」や「性格」は重要な個性付けの手段でした。「男キャラ」「女キャラ」という表記と、それに基づく性格や能力の違いは、ゲーム体験を彩る大きな要素だったのです。
現代のゲームファンの間では、ゲームのオリジナル性やレトロゲームの持つ雰囲気が大切にされる傾向があります。そのため、「男・女」という性別表記を廃止してしまうことに、「オリジナルのゲーム体験が失われる」という懸念を抱くファンが多いのも納得できる話です。性別表記の削除は、ゲームの持つ「レトロな感覚」を損なうものであり、「HD-2D」というビジュアルの懐古的なアプローチと矛盾するとの批判もあります。
多様性配慮とファンの間でのバランス
こうした論争の背景には、「時代に合わせた多様性配慮の必要性」と「過去作品の魅力を守りたい」という両者の間で、いかにバランスをとるかという課題があるようです。スクウェア・エニックスは、このようなリメイク版において、過去のファンに敬意を払いつつ、新しい時代の価値観を反映するという難しい立場に立たされています。
性の多様性を推進する団体の代表である松岡宗嗣さんも、「男女の二者択一は、現実社会の多様な性のあり方を反映できていない」と指摘し、性別表記の廃止を歓迎しています。「特にトランスジェンダーやノンバイナリーの人々のためにも、キャラクターの多様性が必要だ」という意見も一理ありますが、一方で、従来のファンが大切にしてきた「ドラクエらしさ」をいかに守るかという問題も無視できないのです。
結論—ドラクエファンの愛着と変化の狭間で
今回の「HD-2D版『ドラゴンクエストIII そして伝説へ…』」の炎上騒動は、ただの性別表記変更という問題を超えた、クラシックなゲームシリーズが現代の価値観にどう適応するべきかという深い問いを投げかけています。
ドラクエシリーズは、長い年月をかけて多くのファンに愛されてきました。そのため、リメイク版には期待と同時に、原作のイメージや体験が失われないかという懸念がつきものです。
性別表記の削除に関する賛否両論は今後も続くでしょうが、スクウェア・エニックスがこの変更をどのように取り入れて、シリーズの伝統と新しい価値観をどう共存させるのか、その結果が注目されます。